岡山と北海道のものづくりを見つめて。第5回「ほっとけないSHOW」

2019年10月4日(金)、ほっとけないBAR(大人座)にて、第5回「ほっとけないSHOW」が開催されました。今回の登壇者は、岡山県より「EVERY DENIM(エブリデニム)」の山脇 耀平さん、 北海道からはバッグブランド『KEETS』代表の鞄職人・後藤 晃さんをお招きして、会場と共に トークが交わされました。

もっと挑戦しやすいコミュニティを広げていこう

「ほっとけないどう」という企画がスタートしてから、4ヶ月。第5回「ほっとけないSHOW」は、 大人座で開催されました。チェックインタイム(※参加者同士が周りの人と自己紹介をする時間) を行なった後に、サッポロビールの土代裕也さんから「ほっとけないどう」の仕組みと企画の説明が行われました。大人座代表の五十嵐さんからもお話がありましたが、土代さんもサッポロビールという大企業の中で、この「ほっとけないどう」というふざけた名前のプロジェクトを社内に 通し続けてくれているチャレンジャー(笑)。この取り組みが北海道大学での講義の題材にもなり、 土代さんは、今回のイベント前に講義をしてきたといいます。

サッポロビールと開拓精神の歴史

土代:サッポロビールには、開拓精神の歴史があります。イベントや企画というもの自体は、直接売上をあげるものではありませんが、北海道が元気になることが、巡りめぐって私たちの力にな ると思っています。地域で活動をしている人たちを紹介する、応援と挑戦が広がっていく...応援者 が、挑戦者になる。挑戦者も、また応援者である。そんな肯定的なコミュニティの輪を広げていけたらなと考えて、この仕組みを4ヶ月続けてきました。これからも、ますます頑張っていこうと 思います。

カンパイ☆ファンディングとは?

「ビールを飲むことで、誰かの挑戦を応援しよう!」という仕組みです。一ヶ月単位で、挑戦者のプロジェクトをビールやソフトドリンクを飲むことで支援します。売り上げの半分が、挑戦者の ファンディングとして支援されます。ぜひ、このブログを読んでいるあなたも挑戦者になっちゃいましょう!

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EVERY DENIM共同代表/兄・えぶりシティ市長(岡山県倉敷市児島)の山脇耀平さん

2015年、瀬戸内エリアに集積する工場で作られるジーンズの作り手と売り手の距離を縮めることをテーマに、“消費されないデニムを届ける”という理念で誕生したジーンズブランド『EVERY DENIM(エブリデニム)』を兄弟で立ち上げ。経済誌「Forbes」による「アジアを代表する30歳 未満の若者30人」への選出や「ガイアの夜明け(テレビ東京)」での特集など、多数のマスメ ディアに取り上げられ注目を集めている『EVERY DENIM』について、山脇耀平(やまわき ようへい)さんに、今までとこれからの挑戦について語って頂きます!

“消費されないデニムを届ける”とは?兄弟の挑戦

出身は、兵庫県の加古川市。両親は公務員で、お父さんがアメカジ世代でジーンズをコレクション していた影響もあり、兄弟共に小さい頃からジーンズが好きだったそうです。弟の舜介(しゅんすけ)さんが大学で岡山に進学。岡山はデニムが有名だと聞いたことがあり、つくってる工場を見 てみたい!と言っていたら、ジーンズを加工する工場へ見にいく機会が生まれました。耀平さんは、当時茨城県の筑波大学に通っていました。大学生の時に初めて”働いている大人”を見た気持ち にワクワクした山脇兄弟は、デニム工場の人たちに話を伺って、ウェブで発信するということを 始めます。

クラウドファンディングと全国の旅

2014年4月より、いろんな工場の人たちに話を聞きながら、アパレル業界や工場の現状を知っていきました。取材を進めるなかで、ウェブで発信することも大切だけれども、自分たちで製品を企 画して販売するということをやることに意味があるのではと思い、活動開始半年後の2014年9月に クラウドファンディングで資金を集めます。2016年は、店舗を持たずに週末ごとに日本全国のいろんな地域を旅しながら、ゲストハウスやコミュニティスペースを中心に自分たちの製品を見てい ただきました。金曜日の夜に地域を訪れ、日曜日の夜には戻る日々。そんなことを繰り返してい くうちに、もっと深く地域を知りたいと思い、2017年には二回目のクラウドファンディングに挑 戦し、700万円以上が集まりました。集まった資金で購入したキャンピングカー「えぶり号」に 乗って47都道府県を巡る旅をしました。いろんな地域を訪れながら、週末は製品を見ていただき、平日は地元で衣食住に近いことをやっている方達にお会いして学びを深めます。1ヶ月に1週 間は、キャンピングカーで旅をして、そこで出会った方達のことを東京でイベントで報告していくという活動をしました。

2018年オンラインコミュニティえぶりシティをスタート、老舗企業との共同開発も。

オンラインコミュニティ「えぶりシティ」では、日々様々な活動が行われています。服のたねを配って、各自が育てて、育った綿を使ってできたシャツを着てもらう、というコミュニケーションを 通じて、物がどんな風に作られていくかということを体験してもらうということも。また企業の想いを届ける共同開発にも力をいれています。新素材を生み出し続けた創業78年のSHOWAという テキスタイルメーカーが、3年間かけて開発した新素材「ナイロンデニム」でシャツを作りまし た。部屋干し3時間で乾き、軽くて、シワにもなりにくいというナイロンの機能性を纏ったデニム シャツ。服がどんどん安くなり、消費される存在になっていく時代性に抗うかのように、本当に良いものを丁寧に開発して届けるという、地道な努力を続けています。

2019年47都道府県の旅を終え、ジーンズの街に拠点をつくる

今までは、製品を作って、週末いろんなところを旅をする兄弟として活動してきましたが、今年9 月21日に、泊まれるデニム屋さん『DENIM HOSTEL float』をオープンし、拠点を持ちました。ク ラウドファンディングでは、11,244,000円の応援が集まり、ホステルとドミトリーで16人くらい が宿泊できる宿泊施設が完成しました。カフェも併設され地域の特産品を味わうこともできます。 今まで、店舗を持っての販売を一切行わず、直接地域を訪れ、会話をして、製品にも触れてもらう という対面式のサイクルを続けてきましたが、『DENIM HOSTEL float』ではいつでも製品を見れるようになりました。朝日も夕日も見える海辺のデニムホステルは、畳のヘリや襖にもデニム素 材を使ったり、机にインディゴ染めを利用するなど、細部までこだわっています。日本中で繋がった素敵な方達のことを、ホステルやカフェを通して知ってもらえたら、とプレゼンテーションを 締めくくりました。

『EVERY DENIM』▼
https://www.everydenim.com/s

47都道府県旅の終着、デニム兄弟がジーンズの街に拠点をつくる
 『DENIM HOSTEL float(デニムホステル フロート)』▼


https://readyfor.jp/projects/everydenim

バッグブランド『KEETS』代表・鞄職人(北海道札幌市)の後藤 晃さん

北海道紋別郡遠軽町生まれの後藤 晃さん(ごとう あきら)さんが、道内ゲストとして登場です! 北海道にこだわった丁寧なものづくりを行う鞄職人さんで、2009年に独学でレザークラフトを開 始し、2013年には札幌市内にレザークラフトショップ『Atelier BARBUTO』をオープン。その後、 新たなスタイルと環境を求めて宮の森円山地区に移転し、『KEETS』を立ち上げました。北海道産木材やエゾシカ革、帆布などの素材を使用し、北国の暮らしに通じる「シンプル・ミニマル・ ユニーク」をキーワードとしたバッグを、一つひとつ丁寧に作り上げています。

音楽制作会社から、ものづくりを独学でスタート

後藤さんのお父さんも、公務員だったそうです。地元の高校を出て、大学に入るタイミングで札幌に来て、大学院まで卒業しました。しかし当時は、就職氷河期。本当は公務員志望だったそう なのですが、落ちてしまい、アルバイトしていた音楽制作会社へ就職し、そのまま10年勤めまし た。音楽というカタチのないものを制作し続けるなかで、形あるものを作っていきたいという気 持ちが大きくなっていったといいます。たまたま知り合いの皮職人の工房でミシン作業を始める 機会があり、手応えを感じて、独学でレザークラフトを学び、独立しました。また鞄制作を始めた頃は、結婚したタイミングでもあり、家族と過ごす時間を大切にしたいと思ったということも、 独立の理由だったといいます。

北海道の魅力を詰め込んだ鞄作りを

『KEETS』の鞄は、素材にこだわって作られています。駆除対象になってしまったエゾシカの皮 を使ったバッグは、驚くほどの柔らかな手触りでした。お子さんが1歳になった時に作ったバッグ は、大きな木の枠が特徴的で、旭川の家具工房に頼んで、一つ一つ手作りしています。一番人気の トートバッグは、カラマツ林に雪が積もったような内側とエゾマスしゃけのキーホルダーが特徴的。精油づくりで使用されるドドマツの残りを作って、帆布を染めたり...と北海道らしさと資源 の循環を考えたものづくりをしています。家族との時間を大切にしながら、アトリエ兼ショップで 制作をする日々です。ぜひ、円山にある後藤さんの『KEETS』へ訪れてみてはいかがでしょう。

バッグブランド『KEETS』▼
KEETS WEBサイト:http://keets.co.jp/
KEETS FBページ:https://www.facebook.com/KEETS.INC/

会場を交えたクロストーク。飲み会のようなラフさで質問タイム!

まずは「ほっとけないどう」の運営も行う、中屋さんから質問が。実は、中屋さんは、ジーンズ ブランドのRight-Onで10年働いてきた経験があるそうで...

中屋:ジーンズ好きには、ビンテージやレプリカなど好きな人が多いと思うんですけど、どうしてそっちにいかなかったのかなって。

山脇:確かに、お父さんとかはそっちが好きだったんですけど、僕らは世代的にそうゆうブームが 一旦落ち着いた頃だった気がします。工場の人たちの話を聞いていると、新しい素材をつくって、 届けたいと思っている人たちもたくさんいたんです。それってデニムなの?って思うようなユニークな素材を僕らのブランドなら試してもらえるかもしれない、という自然な流れで今のような方 向性になりました。

人生を変える、チャレンジのきっかけ

五十嵐:今の仕事をビジネスとしてやろうと思ったきっかけは?

後藤:音楽制作をしていた時に、このまま続けていても良いのだろうか?ということを思っていて...届けた先の人が本当に喜んでくれる形に残るものを作りたいという気持ちが大きくなってい きました。あと北海道って、外から見ると魅力的なことがまだまだたくさんあると思うんですけれど、そこを活かしきれていないのではないか?と思うこともあり、新しいものを作っていきたいと思っています。

中屋:なるほど...ちょっと聞いてみたいことがあって、僕も転職経験と起業経験があるんですけれど、今日来てる人たちの中で、自分の人生を180度大きく変えたいと思っている人も会場の中に いると思うんですけど...(会場から数名、手が上がる)あ、いますね。おふたりの人生をガラッと大きく変えるときの精神状態ってどんなだったのかな、と。

後藤:そこまで深く考えてなかったんですけど(笑)結構勢いでやっちゃったというか...知り合 いがやっていた『Atelier BARBUTO』で、工業用ミシンを触らせてもらう機会があり、向いていると思ったんです。最初から、写真撮ってネットで販売するということは、はじめていました。その頃は、まだビジネスにはなりきってなかったんですけれど...あとは、『Atelier BARBUTO』が もともとあった場所なので、すでに顧客があって、顧客を引き継ぐことができたというのが、運が良かったとも言えます。この最初の2~3年の間に死ぬほどバッグを作りました。

山脇:僕たちは、『EVERY DENIM』がファーストキャリアなので...もしダメなら、次を考えようと思っていたのが正直なところで。ただ大学生の時に、時間が経てば経つほど、チャレンジがし づらくなるかもしれない、とは思いました。大学生で、地域に関わることをやるというのは、応援してもらいやすい状況だと思ったので、今始めるべきなんじゃないかなと。

中屋:『EVERY DENIM』は仲間集めの仕方がとっても上手いと思っていて...(会場からも「ずるいよね」という声が。笑)そう、ずるいんですよ(笑)どうゆう風にそこらへんを意識してるかを聞きたくて。

山脇:僕らが兄弟ふたりで、なんとかやっていくということを考えるうえでは、どうしても人に頼 らないといけない状態だったというのは、スタートラインとしてありました。たとえばクラウドファンディングをやるときも、感情の部分ももちろんあるんですけど、より具体的にどうゆうよ うな提案の仕方だと応援してもらいやすいのかな?とか...なにかをやりたいということに対して も、自分たちのエゴがスタートにはなるのですが、どうゆう在り方だと社会にフィットしやすいかな、ということにすごく時間をかけて丁寧に考えてるかもしれません。できる限り、わかりや すく、具体的にプランとして応援する側も気持ちよく応援できるように、ということをこちらか ら提案としてお願いするというか...。反対側で、自分が応援する立場だった時に、こうゆう応援の仕方なら気持ちいいよなぁ、ということを丁寧に考えます。

会場からは北海道で活動する職人さんからもお話が...

中屋:職人として100点のものを永遠に求め続けるという作り手の立場と、なるべく高く売る という売り手の立場を、自分の中に同居させるのが難しいという話を、後藤さんともしてたんだ けど...そうゆう役割は、兄弟で分担してるんですか?

山脇:そうですね。弟が岡山で工場の人たちとコミュニケーションをとって製造の部分を主に担 当し、僕がその先の届けたりとかメディアの方達とのやりとりをしている、という役割分担が自然 に生まれました。たしかに今日のトークテーマを考えても思うんですけど、作り手じゃない人た ちが、届ける側に回るという役割が、すごく大きいなということを感じています。作り手さんが発する言葉が一番ピュアだと思うんですけれど、それをどう届けるかと考えていく人たちがいる ことも、すごく大事なんじゃないかなということは、日々感じていることではあります。

作り手は、孤独になりやすいからこそ、どう繋がっていくか?ということがひとつテーマになりました。

作り手だけでやっている人たちの繋がりもあれば、作り手と届け手を同時にやっている 人たちも増えてきている、ということを日本全国を旅する中で山脇さんは肌で感じたそうです。横の繋がりを作っていくこと、価値をシェアしていくことは、北海道のものづくりにとっても大切 なテーマかもしれません。北海道の歴史は、150年。ものづくりをしていくうえでは、どう北海道 らしさを伝えていくかということが難しい土地でもあると、職人さんたちは感じているそうです。 情報交換していこうという試みとして、サッポロスタイルがありますが、今後さらにジャンルを超えて、価値観ベースで繋がっていくような繋がりが、今の北海道には求められているのではと感じました。

岡山にはあるけど、北海道にはない??「伝統」とは、なにか

北海道でものづくりをしていると、伝統がないということに一度はみんな迷うといいます。岡山 では、ものづくりの歴史があるけれど、北海道にはないのでしょうか。

山脇:伝統って、自分の中で誇りに持つべきとか引き継ぐべき大切なものでは、もちろんあると思うんですけど、それを直接的にこれからのことを考えた時に、アピールとか売りにするものでは ないと思ったんです。いわゆる産地ブランドで成り立ってるところじゃないところでやってる人た ちにも、旅の中で出会ったんです。彼らは土着のルーツがないぶん、自分たちとしてこれからやっていくためには、どうしたらいいんだろう?これから自分たちの作っていくものが、自分たちの 地域の代名詞になるようにはどうしたらいいんだろう?ということを本当に真剣に考えています し、さっき伝統って言っちゃったんですけど、そうゆう人たちが未来を作っていくんだろうなぁって思いました。

中屋:すごく深い話がどんどん出てきそうなんですけども、そろそろ時間なのでお二人に最後の 一言をいただいて、あとは交流会で続きをしましょうか。せっかくデニムの試着もできますし... かばんもぜひ近くで見てもらいたいです。

五十嵐:そうですね。「ほっとけないSHOW」というイベントは、道外のいろんなチャレンジをしている人から刺激を受けたいなぁと思って始まった企画なので、最後に、「挑戦」というテーマ で一言ずつをいただければと思います。

山脇:「北海道に歴史がない」というお話は来るたびに道民の方達たちが聞くのですが、本当に 大切なのはこれからだと思います。むしろ悪い言い方をすると伝統に甘んじて挑戦を続けられな いという場所よりも、やりがい・挑戦がしがいがある地域かもしれません。北海道に来ると地域 愛の深い人たちが多いなと感じるのですが、そのなかで生きられているという北海道のこれから は、自分自身にとっても楽しみでもあるし、岡山のデニム産業や自分たちとも、何かご一緒でき ることがあれば嬉しいなぁと思います。

後藤:ものづくりの産業の歴史がないところでやるというのは、迷いが多いものでもあるけれど、 ポジティブに捉えればなんでもやって良いという北海道は、歴史や伝統のアイデンティティが確立していないぶん、新しいことに自由にチャレンジできる土壌がある。これから三年後、五年後、 十年後、どんな風に北海道が変化していくのかということを考えながら、自分も頑張っていきた いと思いました。

次回の「ほっとけないSHOW」は、11月7日(木)19:00~!大人座に三重県から刺客がいらっしゃいます。どうやら、まちづくりといえば...というエッジの効いた方らしい...。お楽しみに!
第6回「ほっとけないSHOW」イベントページはこちら▼
https://www.facebook.com/events/671746656649433/

(ライター Natsumi Miki)
(写真 ヤリミズユウスケ)